ペロシ訪台で習近平が喜んだワケ
■中国・突然の軍事演習の本当の狙いとは?
2022年8月2日、ナンシーペロシ米下院議長の台湾訪問後、中国は約束通りに大規模な軍事演習を実行しました。短距離ミサイル、11発が台湾近辺に向けて発射され、その内5発はなんと日本の排他的経済水域(EEZ)に着水しました。これは、まさに日本の主権への侵害と言える行為です。そのため、日本政府、防衛省は当然強く抗議をしました。
それでも中国は翌日8月5日に、今度は軍機68機、軍艦13隻を派遣し、
・軍機68機のうちの20機、
・軍艦13隻のうち1隻が
海峡の中間線を通過したのです…
今まで台湾と中国の間には、台湾海峡を挟んで真ん中に1本のラインがあり、お互いにラインを越えないようにするのが“暗黙の了解”でした。中国は最近 、この中間線の存在を認めないと発言していました。今回、その中間線を短期間ではあるものの、超えて中間線を無視するという実績を作ってしまいました。
では、今回の中国の大規模軍事演習の狙いとは何だったのでしょうか?そして、その目的を達成することができたのでしょうか?実は、中国のこの軍事演習の最大の目的は、対外的ではなく対内的、つまり中国国内に向けたものだったのです。
■習近平が得たかった実績とは?
習近平にとっての一番の関心事は、3期目の続投です。そして彼の、3期目に向けての一つの実績作りが大切だったというわけです。大手メディアの報道や専門家の分析を聞いていると「ナンシー・ペロシが台湾を訪問するというので、習近平が癇癪を起こして大規模な軍事演習をした。」というような意見を目にしますが、それは正しくありません。
というのも、今回の大型軍事演習は、1996年の台湾危機以来となるミサイル発射であり、ペロシが来たからと言って、すぐに実行できるようなものではなく、かなり前から入念な計画が必要なものなのです。
そのため、ペロシ訪台に必要以上に反応し、あえて中国人のナショナリズムを煽りその対内的目的を達成しようとしたというわけです。
はっきりと言えば、習近平は、この10年間の任期でほぼ実績がありません。
習近平の就任以降、
・中国経済は悪化の一方で
・特に最後の1年はゼロコロナ政策、
・そして企業を潰して嫌われるという
散々なものでした…
そして台湾への軍事侵攻もなかなかチャンスが無かったところ...ちょうどいい口実が出来たというわけです。台湾への”疑似”軍事侵攻を行うことで、習近平は3期目の言い訳を獲得しました。「俺でないと台湾侵攻はできないぞ」という言い訳を手に入れたのです。
では、中国国内ではなく、対外的な目的とは何だったのでしょうか?
■中国が変えた現状と新しい現状 "New status quo"
それは、「新しい現状」を作ったことです。今回中国が変えた現状とは、
下記の三点です。
1. 台湾海峡の中間線は存在しない。(=中国軍機は台湾の領土ギリギリまで動かせる)
2. 台湾海峡は中国の領海であり国際水域ではない。
3. 日本の排他的経済水域(EEZ)を認めない。
この現状を一方的に破壊。これらは、もし国際社会が黙っていれば、習近平の実績になったことでしょう。しかし、実際には中国が今回の軍事演習によって失ったものも数多くありました…
■今回の軍事演習で中国が失ったモノとは?
それは、
1. 軍事情報が丸裸になった。
世界中が注目(監視)する中、米軍の偵察機が上空を飛ぶ中で、軍事演習が実行されました。その結果、・中国のミサイルに関する情報 ・中国軍の通信に関する情報
が丸裸になったのです。ミサイルのスピードや、角度、軌道など普段であれば、なかなか漏れることのない今後のミサイル防衛に役立つデータを外に出してしまったのです。
2. アメリカをはじめとする国際社会が台湾支持に回る。それによって中国の立場が悪くなる。
ナンシー・ペロシはアメリカで有名な左派です。左派の権化であるペロシが訪台し、大規模
な軍事演習をやるということで、これまで中国をあまり非難してこなかったような、左派媒体までもが大々的に報道しました。
また、これまでは中国の顔色ばかり窺っていたASEAN諸国が中国批判の声明を発表したことも今回の大きな変化の一つです。中国経済に依存しているため、これまでは遠慮がちだったのですが、それでも今回は批判の声をあげたのです。
3. アメリカ軍の脅威。
フィリピン海に米軍が常備することで中国を脅かす存在となる。台湾への軍事援助がスピーディーかつ円滑になる。
と言ったことが挙げられます。
今回の事件で、中国の最終目標である台湾侵攻=台湾を手に入れることに近づいたのか?と言えば、ますます台湾は離れていったのではないかと思います。というのも、習近平の関心事が自分の3期目継続だからです。しかし、油断してはいけません。いずれは台湾侵攻は起こります。
中国にその気が無くなったというわけではありません。
いつか来るその日のために、事前に備えをし、被害を最小限に抑えるために今回の緊張・危機をチャンスとしなければなりません。
この危機を無駄にはしてはいけないと思います。
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